展望露天の湯　有馬館

「展望露天の湯 有馬館」がある「かみのやま温泉」は、温泉の「集中管理」方式を採用しているエリア。 「集中管理」方式とは、各源泉井戸から一旦「貯湯槽」に集められ、混合・貯蔵された後、各施設に供給されるシステム。これにより温泉資源を効率的に利用し、供給量や品質を安定させている。 「有馬館」は、上山源泉1号、2号、3号と呼ばれる泉質が概ね同じ3つの源泉から温泉を引いている。 3つの源泉は、泉温がそれぞれ違うので、気温が高い夏季は一番温度が高い源泉井戸は休ませるなどして、限りある温泉資源を未来に残すための努力を行っているとの事。 元々、「有馬館」自体は源泉井戸を所有していたが、現在では資源保護の観点から、温泉地全体で源泉を所有・管理するシステムに同意したわけだ。 「有馬館」の温泉分析書には、その3つの源泉を混合した温泉のデータが記載されている。 泉温は62.8℃で多少高めだが、各施設の湯船に配湯するまでに泉温も下がり、適温に近い状態になるので、理想的な泉温とも言えるだろう。

pH(水素イオン濃度)は7.6の弱アルカリ性だ。
一般的に人間の肌は弱酸性(pH4.5～6.0)であるため、弱アルカリ性の温泉に浸かると皮膚表面の古くなった角質が溶けてツルツルとした肌触りになる。古い角質が取れるため、湯上がりには肌が生まれ変わったような感覚が得られるだろう。

泉質名は「ナトリウム・カルシウム―塩化物・硫酸塩泉」。
旧泉質名で言えば「含石膏―弱食塩泉」となる。 つまり、「ナトリウム―塩化物泉」（旧泉質名：食塩泉）と「カルシウム―硫酸塩泉」（旧泉質名：石膏泉）の２つの特長を持つ泉質となる。 「塩化物泉」と「硫酸塩泉」の泉質別適応症は、共通となっており、きりきず、末梢循環障害、冷え性、うつ状態、皮膚乾燥症の5つ。

まずは「ナトリウム―塩化物泉」から解説すると、塩分が主成分になっているので、飲用すると塩辛い。
その塩分は、殺菌作用があり、きりきずや火傷に効果を発揮するので「塩化物泉」は「傷の湯」と称される。湯に浸かると、その塩分がカラダ全体を覆い、湯から上がると肌に塩分が吸着しているので、汗腺（汗を分泌する器官）を塞ぐ事になり、保温効果が持続する事になる。よって、血行が良くなり、末梢循環障害や冷え性にいいとされ、「熱の湯」とも称される。
また、持続的な保温効果は、ストレスホルモンの分泌が抑えられ、自律神経のバランスが整い、精神的な安定感を促す事で、うつ状態にいいとされる。
さらに、塩分パックのようなコーティング作用は、保湿効果を強くするので、皮膚乾燥症にも役立つ。

次に「カルシウム―硫酸塩泉」の第一の特長としては、皮膚再生を促進させるカルシウムイオンと、肌の弾力を高め、シワやたるみを防ぐ効果のある硫酸イオンの組み合わせで「美肌の湯」と呼ばれる事だろう。つまり、コラーゲンの生成を促し、肌の蘇生を導き、新陳代謝を活性化する。肌に張りと潤いを与えるアンチ・エイジング作用が期待できる事で「若返りの湯」とも称される。
また、硫酸イオンは、殺菌効果や抗炎症作用があるので、きりきずや関節炎、筋肉痛などの痛みや炎症を和らげる。よって、「硫酸塩泉」も「塩化物泉」と同様「傷の湯」と呼ばれる。 また、カルシウムイオンは、血管の収縮と拡張を調整する作用があり、血圧の安定化に寄与する。つまり、血管を安定させることで、血流が滞りやすい末梢部分（手足など）の血行が促進され、末梢循環障害や冷え性の改善が期待できるのだ。さらには、乾燥した皮膚に水分を補給させるので、皮膚乾燥症の改善にも効果的。このような作用により、自律神経の調整が行われ、ストレス軽減や精神的な安定に影響を与え、うつ状態の改善にも貢献する。
泉質名に現れていない成分にも注目。
ふっ化物イオンが源泉1kgあたり4.2mg/kgも含まれており、これは温泉の資格の基準値（2mg）の2倍以上の数字となる。虫歯予防に効果を発揮する物質としてよく知られているが、温泉では、抗菌性があり、特に細菌の増殖を抑える効果があるため、皮膚疾患の治療や予防に有効とされている。 さらに、皮膚の保湿と代謝促進にも役立ち、微量のふっ化物が肌に吸収されることで、皮膚の新陳代謝を促進し、乾燥や炎症を和らげる可能性がある。 そして、メタほう酸も源泉1kgあたり12.0mgも含まれている。これは温泉の資格の基準値（5mg）の2倍以上の数字となる。この成分は主にニキビ防止などの洗浄効果があると言われている。 メタけい酸も源泉1kgあたり56.6mg含まれており、基準値(50mg)以上だ。メタけい酸は乾燥させるとシリカゲルという乾燥剤として使用される物質になる。つまり、保水力がとても高いので、弱アルカリ性の温泉によって角質が取れたところに水分を保持する効果が期待できる。100mg以上あれば、湯上がりには、さらに肌がしっとりと感じられるだろう。

さらに保健所から正式に飲泉が認められていることも大きな魅力。飲泉許可には、非常に厳しい衛生基準を満たす必要があるので、飲泉所はとても貴重だ。
欧米では飲泉を医療行為として行う地域もあるなど、その健康効果は折り紙付き。ただし飲用する場合は定められた1日の限度量(1回100～150ml、1日200～500ml)を越えないように注意しよう。
この温泉を飲用することで得られる泉質別適応症として、「塩化物泉」と「硫酸塩泉」で共通する項目は、便秘。塩化ナトリウムが腸壁を刺激し、カルシウムイオンが腸の動きを安定させる事で、便がスムーズに腸を通過するようになる。 さらに、「塩化物泉」の飲用の泉質別適応症としては、萎縮性胃炎があげられる。塩化ナトリウムは、胃の粘膜を刺激し胃酸の分泌を促進するとともに、胃の粘膜も保護する。 他に「硫酸塩泉」の飲用の泉質別適応症として、胆道系機能障害（硫酸イオンが胆汁の分泌を促進させる）と、高コレステロール血症（カルシウムイオンが血液中の脂質バランスを整える）がある。

弱アルカリ性成分による角質除去効果、硫酸塩泉による肌の蘇生効果は、「美肌の湯」の条件を満たし、そしてサブ的な役割として、塩化物泉によるコーティング効果による保湿作用、メタほう酸による洗浄効果は、「かみのやま温泉」の泉質がいかに優れているかが分かる。
「有馬館」では、大浴場や貸切風呂の一部では、源泉100％かけ流し方式としているが、他の湯船では新しい源泉を注ぎつつ、塩素消毒しながらの循環ろ過方式を採用している。
不特定多数が入浴する浴槽では、入浴前のかけ湯がエチケットして必須だが、それでも湯船を衛生的に保つためには、温泉を循環ろ過しつつ、塩素消毒は欠かせない。
温泉を循環させることで、一部の温泉マニアが、温泉成分が薄くなると批評する事があるが、「かみのやま温泉」の源泉は、陽イオン＋陰イオン＋非解離成分の合計で、2,389mg/kgもある。これは市販の有名な某入浴剤の有効成分と比べると、16～24倍の濃さがある事を覚えていて欲しい。

源泉かけ流しの湯舟や岩盤浴のある温泉大浴場は、1階、地下の2か所で、時間によって男女入れ替え。
屋上の展望露天風呂は、この宿の人気の象徴で、「かみのやま温泉」の街並みや蔵王連峰を一望できる。

お客様が喜ぶような事はすぐに実行する。そんな基本姿勢がここのモットーとなっているようだ。
温泉が良質であるだけでなく、トルコにある複合世界遺産に登録された「ヒエラポリス－パムッカレ」の温泉石灰華段丘をイメージした貸切風呂や、バリアフリーの貸切風呂「やわらぎ」、立ち湯の貸切風呂など、お風呂自体がバラエティ豊か。
この宿の人気の展望露天風呂は、夜間には貸切露天風呂と装いを変える。
このように、貸切風呂だけで５つも揃っている。

何かのお祝いや記念日旅行にもいいし、友達同士の楽しい休暇にもいい。楽しい思い出となる要素が満載の宿なのだ。
さらに、旅館の楽しみといえば料理。部屋食にこだわるのもこの宿のスタイルだ。料理を各部屋に運ぶことはそれだけ手間がかかるが、それでも自分の客室でゆっくり食事をしたい人のために、ここはあえて部屋食を守っているのだ。

東北らしい長閑で鄙びた風情の中、朗らかな雰囲気にあふれた館内に流れる雰囲気は心地よく、心おきなく寛ぐことができる。宿泊料金を考えれば、そのコストパフォーマンスに驚愕するに違いない。1万円台の料金で、これだけゆったりできるという事は、まさにそれだけでこの宿の良心を感じる。 宿泊レポートはコチラ