温泉&旅 倶楽部

温泉分析書を読む5STEP

STEP④泉質名の決め方

泉質名の表記ルール

まず、「温泉分析書」から「温泉」の特徴を探る場合、下記の7項目を見ます。

①陽イオン + ②陰イオン + ③非解離成分 = ④溶存物質の合計(ガス性のものを除く)

⑤浸透圧  ⑥水素イオン濃度(pH)  ⑦泉 温

「泉質名」は基本的に下記のような表記になります。

A:特殊成分―B:陽イオン―C:陰イオン D:泉温
(F:浸透圧 G:水素イオン濃度/液性 H:泉温による分類)

下記の泉質名の表記例】(pH8.6 泉温33℃の場合)
酸性・含硫黄―アルミニウム―硫酸塩・塩化物 温泉
※酸性・含硫黄―アルミニウム―硫酸塩・塩化物泉 でもOK
(低張性 酸性 高温泉)

なお、泉質名の表記ルールは「鉱泉分析法指針」の冒頭の「1. 鉱泉の定義と分類 (1~8ページ)」に、詳細に記しています。
また、「温泉分析書」の例示などは「8-6 温泉分析書作成上の注意点」(155~158ページ)に記しています。

鉱泉分析法指針
Guideline to the Mineral Spring Analysis Methods
https://www.env.go.jp/council/12nature/y123-14/mat04.pdf

鉱泉分析法指針では「療養泉として10種類の泉質を掲げています。このうち1つでも該当するものがあれば、泉質名がつきます。「療養泉」のみが、泉質名が付くことを認められています。


10種類ある「療養泉」の泉質名の付け方のルールは以下の通りです。

単純温泉の表記ルール ①単純温泉

■泉温が25℃以上で、他に泉質名が付く条件がない場合で、溶存物質の合計(ガス性のものを除く)が1,000mg/kg未満の場合は「単純温泉」 。アルカリ性か弱アルカリ性の場合、泉質名が「アルカリ性単純温泉」または「弱アルカリ性単純温泉」と表記される。

塩類泉の表記ルール ②塩化物泉 ③炭酸水素塩泉 ④硫酸塩泉

1,000mg/kg以上のものは、泉質名に陰イオンの主成分が表記される。

■陽イオン、陰イオンの順で表記し「」(ダッシュ/ダーシ)でつなぐ。

【例】陽イオンの主成分が「ナトリウムイオン」、陰イオンの主成分が「塩化物イオン」の場合
→「ナトリウム塩化物泉」

【例】陽イオンの主成分が「マグネシウムイオン」、陰イオンの主成分が「炭酸水素イオン」の場合
→「マグネシウム炭酸水素塩泉」

【例】陽イオンの主成分が「カルシウムイオン」、陰イオンの主成分が「硫酸イオン」の場合
→「カルシウム硫酸塩泉」

陽イオン、陰イオンとも「mval%」(ミリバルパーセント)が、20%以上の物質を含有量の多い順に表記される。 そして、特殊成分、陽イオン、陰イオンがそれぞれ複数ある場合は「・」(中黒・中点)で区切る。
【例】ナトリウムカルシウムマグネシウム―炭酸水素塩塩化物泉
ただし、英語で表記する時、(弊社の方針では)特殊成分と陽イオンが複数ある場合は「 , 」(カンマ)で区切り、陰イオンが複数ある場合は「/」「」(スラッシュ)で区切る。
【例】sodium, calcium, magnesium―hydrogen carbonate/chloride spring

■陽イオンとして泉質名に反映される成分は以下の通り。
ナトリウムイオン→ナトリウム    マグネシウムイオン→マグネシウム
カルシウムイオン→カルシウム    アルミニウムイオン→アルミニウム
鉄(Ⅱ,Ⅲ)イオン→鉄(Ⅱ,Ⅲ)
水素→水素 ※「酸性泉」の時に、他に20mval%以上の成分が無い場合のみ表記

特殊成分を含む温泉の表記ルール ⑤二酸化炭素泉 ⑥含鉄泉 ⑦酸性泉 ⑧含よう素泉 ⑨硫黄泉 ⑩放射能泉

■特殊成分が規定値以上である場合は下記のように表記。
「遊離二酸化炭素」が1,000mg/kg以上→「二酸化炭素泉」
「総鉄イオン」が20 mg/kg以上→「含鉄泉」
「水素イオン」が1 mg/kg以上→「酸性泉」。
「よう化物イオン」が10 mg/kg以上→「含よう素泉」。
「総硫黄」が2 mg/kg以上→「硫黄泉」。
「ラドン」が8.25マッヘ/kg以上→「弱放射能泉」/50マッヘ/kg以上→「放射能泉」。

■特殊成分(遊離二酸化炭素・総鉄イオン・水素イオン・よう化物イオン・総硫黄・ラドン)が規定値以上に含有した場合は、泉質名の最初に表記される。
【例】含硫黄―ナトリウム―塩化物泉
なお、特殊成分を 2種以上含有する場合には下記のように表記し、特殊成分の表記順位は,原則として以下の順位になる。
1. 水素イオン(陽イオン)→酸性
2. 総硫黄[HS(硫化水素イオン)+ S2O32(チオ硫酸イオン)+ H2S(遊離硫化水素)] →含硫黄
3. 遊離二酸化炭素→含二酸化炭素
4. ラドン→含放射能
5. 総鉄イオン [Fe²⁺ + Fe³⁺] →含鉄
6. よう化物イオン→含よう素

■【例】酸性・含硫黄―ナトリウム―硫酸塩泉
含弱放射能・鉄(Ⅱ,Ⅲ)―マグネシウム―硫酸塩泉
含二酸化炭素・鉄(Ⅱ,Ⅲ)―単純冷鉱泉
含硫黄・弱放射能―アルカリ性単純温泉

■「塩類泉」ではなく、溶存物質が1,000mg/kg未満で、特殊成分が規定値以上である場合、下記のように表記。
【例】単純二酸化炭素温泉
【例】単純鉄温泉
【例】単純酸性温泉
【例】単純よう素温泉
【例】単純硫黄温泉
【例】単純放射能温泉/単純弱放射能温泉

その他の表記ルールは次の通りです。

泉温のルール

■「温泉法」で定める物質が規定値以上に含有し、泉温が25℃以上ある場合は「温泉」。
25℃未満の場合は「冷鉱泉」と表記。
【例】25℃以上の場合・・・「ナトリウム―塩化物泉」or 「ナトリウム―塩化物温泉」
※他に例として「炭酸水素塩泉or炭酸水素塩泉」「硫酸塩泉or硫酸塩泉」もあるが、「」の表示を使わない表記が大半のようである。
泉温を強調したい場合は「」を付ける傾向がある。
【例】25℃未満の場合・・・カルシウム―硫酸塩冷鉱泉

■泉質名に併記する「浸透圧、水素イオン濃度/pH、泉温による分類」の中で、泉温に関しては下記の通りとする。
25℃未満の場合・・・冷鉱泉
25℃以上~34℃未満の場合・・・低温泉
34℃以上~42℃未満の場合・・・温泉
42℃以上の場合・・・高温泉

例外のルール

■温泉法上の温泉ではあるが療養泉ではない場合(メタけい酸の含有量が温泉の規定値以上だった場合)は、以下の様に表記する↓
「温泉法第二条の別表に規定するメタけい酸(H2SiO3)の項により温泉に適合する。ただし療養泉には該当しないので泉質名はない。or 温泉法第二条の「温泉」に該当(メタけい酸含有)」。


表記例① 泉温52℃ pH2.3 溶存物質の合計1000mg/kg以上 の場合

酸性・含硫黄・鉄(Ⅱ,Ⅲ)カルシウム硫酸塩 温泉 (硫化水素型)
(A特殊成分       B陽イオン  C陰イオンD泉温 E硫黄泉の分類
低張性    酸性    高温泉
 F浸透圧  G水素イオン濃度/液性  H泉温による分類

※D「泉温」は25℃以上ある場合は「温泉」、25℃未満の場合は「冷鉱泉」と表記します。ここでは「硫酸塩泉」という表記でもOKです。
※E「硫黄泉」は「硫黄型」と「硫化水素型」に分類できますが、「硫化水素型」の場合のみ最後に表記します。
※F「浸透圧」、G「水素イオン濃度液性/液性」、H「泉温」の分類は、泉質名に併記します。
※H「泉温」42℃以上の場合は「高温泉」と表記します。

表記例② 泉温41.2℃ pH6.4 溶存物質の合計1000mg/kg以上 の場合

カルシウム・ナトリウム硫酸塩・炭酸水素塩・塩化物 温泉
(B陽イオン         C陰イオン          D泉温
低張性    中性    温泉
 F浸透圧  G水素イオン濃度/液性  H泉温による分類

※Dの「温泉」の表記を「泉」にする事でもOKです。
※B陽イオンとC陰イオンが、20mval%以上の物質が複数ある場合、多い順に表記します。
※H「泉温」34℃以上~42℃未満の場合は「温泉」と表記します。

表記例③ 泉温25.4℃ pH8.4 溶存物質の合計1,000mg/kg未満 の場合

弱アルカリ性 単純温泉
低張性    弱アルカリ性    温泉
 F浸透圧  G水素イオン濃度/液性  H泉温による分類

※泉温25℃以上で、溶存物質の合計(ガス性のものを除く)が1,000mg/kg未満の場合は「単純温泉」。
※アルカリ性の場合、泉質名を「アルカリ性単純温泉」と表記されます。
※H「泉温」25℃以上~34℃未満の場合は「低温泉」と表記します。

表記例④ 泉温15.1℃ pH8.6 溶存物質の合計1000mg/kg以上 の場合

ナトリウム塩化物 冷鉱泉
(B陽イオン  C陰イオン D泉温
低張性    アルカリ性    冷鉱泉
 F浸透圧  G水素イオン濃度/液性  H泉温による分類

※D「泉温」25℃未満の場合は、「冷鉱泉」と表記します。
※H「泉温」25℃未満の場合は、「低温泉」ではなく「冷鉱泉」と表記します。

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この記事の執筆者

執筆者:温泉コム株式会社 CEO 大竹仁一

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